Google Sheets高度活用:マーケティングデータ整形・集計と他ツール自動連携術
はじめに
日々のマーケティング業務において、Google Analytics、広告プラットフォーム、MAツール、CRMなど、複数のツールからデータを収集し、それらを統合して分析や施策実行に活用することは不可欠です。しかし、ツールごとにデータの形式が異なったり、必要な情報だけを抽出・集計するのに手間がかかったりといった課題に直面することも少なくありません。手作業でのデータ処理は時間を浪費し、エラーのリスクも伴います。
Google Sheetsは単なる表計算ツールという枠を超え、Google Apps Script(GAS)や各種連携機能を活用することで、こうしたマーケティングデータの収集、整形、集計、そして他ツールへの自動連携のハブとして機能させることが可能です。これにより、データ処理の時間を大幅に削減し、より迅速かつ正確なデータに基づいた意思決定や施策実行を実現できるようになります。
この記事では、Google Sheetsをマーケティングデータ活用の中心に据え、異なるツールからデータを収集し、Sheets内で高度に整形・集計し、さらにその結果を他のツールに自動連携させるための一連の具体的な手法と応用テクニックについて解説します。単なるデータの「入力先」ではなく、データの「処理と連携の中心」としてのGoogle Sheetsの可能性を探ります。
Google Sheetsを核としたマーケティングデータ連携の全体像
今回解説するGoogle Sheetsを中心としたマーケティングデータ連携のフローは、大きく以下の3つのステップで構成されます。
- 異なるマーケティングツールからのデータ収集・統合: GA4、広告プラットフォーム、MA/CRMなど、様々なデータソースからGoogle Sheetsにデータを取り込みます。API連携、自動エクスポート、ツール連携サービスなどを活用し、可能な限り自動化を図ります。
- Google Sheets内での高度なデータ整形・集計: Sheetsに取り込まれた生データを、目的に合わせて整形(形式変換、不要列削除など)し、複雑な条件での集計を行います。QUERY関数、ARRAYFORMULA関数などのSheets標準機能に加え、GASを用いたカスタム処理を活用します。
- 整形・集計済みデータの他ツールへの自動連携: Sheetsで処理された最終的なデータを、分析ツール、BIツール、MA/CRM、広告ツールなど、次にデータを利用するツールに自動的に連携させます。GASによるAPI連携やWebhook送信などが主な手法となります。
このフローを構築することで、データの収集から活用までのリードタイムを短縮し、常に最新かつ集計済みのデータに基づいたアクションが可能になります。
ステップ1:異なるマーケティングツールからのデータ収集・統合
Google Sheetsにデータを収集する方法は複数あります。ツールの特性やデータの種類に応じて最適な方法を選択します。
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API連携(GAS利用): 最も柔軟性が高く、定型的なデータ収集の自動化に適しています。Google Analytics Data API (GA4), Google Ads API, Search Console APIなど、Google提供のAPIはGASとの親和性が非常に高いです。GASスクリプトを作成し、APIからデータを取得してSheetsに書き込む処理を記述し、時間主導型トリガーなどで定期的に実行します。
```javascript // 例:GA4 Reporting APIからデータを取得しSheetsに書き込む(概念的な例) function getGA4Data() { var spreadsheetId = "YOUR_SPREADSHEET_ID"; // スプレッドシートID var sheetName = "GA4データ"; // 書き込み先のシート名 var propertyId = "YOUR_GA4_PROPERTY_ID"; // GA4プロパティID
var today = new Date(); var endDate = Utilities.formatDate(today, Session.getScriptTimeZone(), 'yyyy-MM-dd'); var startDate = Utilities.formatDate(new Date(today.getTime() - (7 * 24 * 60 * 60 * 1000)), Session.getScriptTimeZone(), 'yyyy-MM-dd'); // 過去7日間
var request = { "dateRanges": [{"startDate": startDate, "endDate": endDate}], "dimensions": [{"name": "date"}, {"name": "sessionDefaultChannelGroup"}], "metrics": [{"name": "activeUsers"}, {"name": "sessions"}], "limit": 1000 };
try { var response = AnalyticsData.Properties.runReport(request, 'properties/' + propertyId); if (response.rows) { var sheet = SpreadsheetApp.getActiveSpreadsheet().getSheetByName(sheetName); // ヘッダー行を書き込む var headerRow = response.dimensionHeaders.map(function(h){ return h.name; }).concat(response.metricHeaders.map(function(h){ return h.name; })); sheet.getRange(1, 1, 1, headerRow.length).setValues([headerRow]);
// データ行を書き込む var dataRows = response.rows.map(function(row){ return row.dimensionValues.map(function(d){ return d.value; }).concat(row.metricValues.map(function(m){ return m.value; })); }); sheet.getRange(2, 1, dataRows.length, dataRows[0].length).setValues(dataRows); Logger.log("GA4 data successfully fetched and written."); } else { Logger.log("No rows returned from GA4 API."); }
} catch (e) { Logger.log("Error fetching GA4 data: " + e.toString()); } } ``` * ツール連携機能/Webhook: 多くのMA/CRMツールや広告プラットフォームは、定期的なレポートのエクスポート機能や、特定のイベント発生時にデータを送信するWebhook機能を持っています。これらの機能を活用し、Google DriveにCSVファイルを自動保存したり、GASでWebhookを受け取ってSheetsに追記したりする方法があります。 * iPaaS (Make, Zapierなど): iPaaSを利用すると、GUIベースで様々なツールとGoogle Sheetsの連携を容易に構築できます。API開発の知識が少なくても、複数のツールからデータを集約してSheetsに書き込むワークフローを作成できます。 * 手動インポートの効率化: 自動化が難しいデータについては、CSVやExcel形式でエクスポートし、Sheetsのインポート機能で取り込みます。この際、GASを使ってインポート後の簡単な整形(不要列削除、形式変換など)を自動実行するスクリプトを用意しておくと効率的です。
ステップ2:Google Sheets内での高度なデータ整形・集計テクニック
Sheetsにデータが集まったら、次に分析や施策に活用しやすい形に加工します。
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QUERY関数: Google Visualization APIのクエリ言語を使用した強力な関数です。元のデータ範囲に対して、SQLのような構文でフィルタリング、集計(SUM, AVG, COUNTなど)、グルーピング、並べ替えを行うことができます。例えば、「特定のキャンペーンIDかつコンバージョンしたユーザーのアクション日付別集計」といった複雑な集計が可能です。
excel =QUERY(A1:Z1000, "SELECT Col1, SUM(Col5) WHERE Col3 = 'CampaignX' AND Col4 > 0 GROUP BY Col1 ORDER BY Col1", 1)
(例:A列(Col1)の日付別に、Col3が'CampaignX'でCol4(コンバージョン数)が0より大きい行のCol5(売上)を合計し、日付で並べ替える) -
ARRAYFORMULA関数: 一つのセルに入力した計算式を、指定した範囲全体に適用できる関数です。これにより、計算式をコピー&ペーストする手間を省き、データが追加されても自動的に計算が適用されるように設定できます。IF関数やVLOOKUP関数と組み合わせて、データの分類や参照を効率化するのに役立ちます。
- GASによるカスタム処理: QUERY関数などで表現できない複雑なロジックや、繰り返し処理が必要な場合はGASの出番です。例えば、テキストデータの詳細な解析、特定の条件に基づいた複数列のデータの結合・分割、外部データとの照合など、Sheets標準機能では難しい高度なデータ処理を実装できます。カスタム関数として定義すれば、SheetsのセルからGASの処理を呼び出すことも可能です。
ステップ3:整形済みデータの他ツールへの自動連携実装
Sheetsで整形・集計されたデータは、次のアクションに繋げるために他のツールへ連携させます。GASを利用することで、この連携処理を自動化できます。
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GASを使ったWebhook送信: 多くのMA/CRMツールやカスタムシステムはWebhookの受け入れ口を持っています。Sheetsの特定のデータが更新されたり、GASの処理が完了したりしたタイミングで、対象データをJSON形式などでペイロードとしてWebhook URLにPOSTすることで、リアルタイムに近い連携が可能です。
```javascript // 例:Sheetsのデータ変更をトリガーにWebhookを送信(概念的な例) function sendWebhookOnSheetEdit(e) { // 特定のシートや範囲の変更かを確認 (eオブジェクトで変更情報を取得可能) var sheet = e.range.getSheet(); if (sheet.getName() !== "連携用データ") return; // 特定のシートのみ対象
var updatedRow = e.range.getRow(); var updatedValues = sheet.getRange(updatedRow, 1, 1, sheet.getLastColumn()).getValues()[0];
var webhookUrl = "YOUR_WEBHOOK_URL"; var payload = { "row_index": updatedRow, "data": updatedValues // 必要に応じてデータを整形 };
var options = { "method": "post", "contentType": "application/json", "payload": JSON.stringify(payload), "muteHttpExceptions": true };
try { var response = UrlFetchApp.fetch(webhookUrl, options); Logger.log("Webhook sent: " + response.getResponseCode()); } catch (e) { Logger.log("Error sending webhook: " + e.toString()); } } // この関数をスプレッドシートの「編集時」トリガーとして設定 ``` * GASを使ったAPI連携(POST/PUTリクエスト): 広告ツールのオフラインコンバージョンデータアップロード、MAツールへの顧客属性一括更新、SFAツールへの新しいリード情報の登録など、外部ツールのAPIエンドポイントに対してHTTPリクエスト(POST, PUTなど)を送信してデータを連携します。GASのUrlFetchAppサービスを利用します。認証方法(APIキー、OAuth2.0など)は対象APIによって異なります。
```javascript // 例:Sheetsのデータを取得し、外部APIにPOSTする(概念的な例 - 再掲) function postDataToExternalAPI() { var sheet = SpreadsheetApp.getActiveSpreadsheet().getSheetByName("連携データ"); var dataRange = sheet.getDataRange(); var values = dataRange.getValues();
var dataRows = values.slice(1); // ヘッダーを除く
var apiUrl = "https://api.example.com/endpoint"; // 連携先のAPIエンドポイント var apiKey = "YOUR_API_KEY"; // APIキー(プロパティストアなどに保存を推奨)
dataRows.forEach(function(row) { var payload = { "id": row[0], "value": row[1], "category": row[2] };
var options = { "method": "post", "contentType": "application/json", "headers": { "Authorization": "Bearer " + apiKey }, "payload": JSON.stringify(payload), "muteHttpExceptions": true }; try { var response = UrlFetchApp.fetch(apiUrl, options); var responseCode = response.getResponseCode(); var responseBody = response.getContentText(); if (responseCode >= 200 && responseCode < 300) { Logger.log("Success: " + responseBody); } else { Logger.log("Error: " + responseCode + " - " + responseBody); } } catch (e) { Logger.log("Request failed: " + e.toString()); }
}); } ``` この処理を時間主導型トリガーで定期実行したり、Sheetsの変更をトリガーとして実行したりすることで、連携を自動化します。
応用例と実践における考慮事項
- 連携エラー時の通知: GASのスクリプト実行でエラーが発生した場合、Catchブロック内で処理し、Logger.logに出力するだけでなく、SlackやTeamsなどのコミュニケーションツールに通知を送ることで、エラーにすぐに気づける仕組みを構築できます。
- GASの実行制限: GASには1日の実行時間やAPI呼び出し回数などに制限があります。大量のデータを処理する場合や頻繁に実行する場合は、これらの制限を考慮し、処理を分割したり、効率的なコードを記述したりする必要があります。
- セキュリティ: APIキーなどの機密情報は、スクリプト内に直接書き込まず、GASのScript Propertiesサービスを利用して安全に管理することが推奨されます。
- チームでの共同利用: 複数の担当者が同じSheetsファイルやGASスクリプトを利用する場合、変更履歴の管理やスクリプトのバージョン管理(GitHubなどと連携)、権限設定などが重要になります。
まとめ
Google Sheetsは、その使い慣れたインターフェースと、GASや連携機能の拡張性により、マーケティングデータの収集、整形、集計、そして他ツールへの自動連携を実現するための強力なハブとなり得ます。この記事で紹介したAPI連携によるデータ収集、Sheets関数やGASによる高度なデータ処理、そしてGASによる外部ツールへのデータ連携といった手法を組み合わせることで、手作業によるデータ処理の負荷を劇的に軽減し、より迅速かつ正確なデータに基づいた意思決定と施策実行が可能になります。
まずは簡単なデータ収集・整形から始め、徐々にGASを活用した応用的な連携に挑戦してみてください。Google Sheetsを中心としたデータ連携基盤を構築することは、マーケティング業務の効率化と成果向上に繋がる実践的なアプローチと言えるでしょう。この「使える」テクニックを習得し、日々のツール活用をさらにブーストさせていただければ幸いです。