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GTM高度活用:データレイヤー設計と他ツール連携の勘所

Tags: Google Tag Manager, GTM, データレイヤー, ツール連携, GA4, Webマーケティング, データ活用, タグ管理

はじめに:標準設定から一歩進んだGTM活用へ

日々のWebマーケティング業務において、Google Tag Manager(GTM)は必須のツールとなっています。基本的なタグ設定やトリガー設定は多くの担当者が習得されていますが、より詳細なユーザー行動データを収集し、それを複数のツールで効果的に活用することに課題を感じている方も少なくないでしょう。標準的なクリックやページビューの計測だけでは捉えきれない、ユーザーの深層的な行動や特定のコンバージョンパスを把握するためには、さらに踏み込んだGTMの活用が求められます。

特に、以下のような課題をお持ちではないでしょうか。

これらの課題を解決し、GTMのポテンシャルを最大限に引き出す鍵となるのが、「データレイヤー」の適切な設計と活用です。本記事では、データレイヤーの基礎から設計の勘所、そしてGTMを介した具体的な他ツール連携の方法について、実践的な視点から解説します。

データレイヤーとは何か?なぜ高度なGTM活用に不可欠なのか

データレイヤー(Data Layer)とは、WebサイトやアプリケーションからGTMへデータを受け渡すための、JavaScriptで記述された共通のデータ構造です。ウェブサイトのHTML要素から直接情報を取得するのではなく、データレイヤーを経由することで、より安定的に、かつ構造化された形で様々な情報をGTMに渡すことが可能になります。

例えるなら、データレイヤーはウェブサイトとGTMの間の「情報伝達用の仲介役」のようなものです。ウェブサイト側で発生したイベント(ボタンクリック、商品購入など)や、ページに関する詳細情報(商品ID、価格、ユーザーIDなど)をデータレイヤーに「プッシュ(push)」することで、GTMはその情報を受け取り、設定されたタグ(GA4タグ、広告タグなど)に渡して、計測や連携を行います。

標準的なGTMの設定(例: クリックトリガーで特定の要素のテキストやURLを取得する)は、WebサイトのHTML構造に依存しやすいという弱点があります。Webサイトの改修によってHTML構造が変わると、設定していたトリガーや変数が意図せず機能しなくなるリスクがあります。

一方、データレイヤーはウェブサイトの構造とは独立したデータ層として機能します。開発者が合意したデータレイヤーの仕様に基づいて情報をプッシュすれば、GTM側は構造変更の影響を受けにくく、より堅牢なデータ収集が可能になります。また、HTMLからは取得しにくい、サーバーサイドで生成された情報や、より複雑なイベントに関する詳細情報もデータレイヤーを通じてGTMに渡すことができます。

この安定性と柔軟性こそが、データレイヤーが高度なGTM活用、特に複数のツールへのデータ連携において不可欠とされる理由です。

実践!データレイヤーの設計と実装の勘所

データレイヤーの設計は、Webサイトの構造や実現したい計測・連携要件によって大きく異なりますが、ここでは一般的な原則と設計のポイントを解説します。データレイヤーの実装はWebサイトの開発者に依頼することが一般的ですが、マーケター側が適切な仕様を伝えることが成功の鍵となります。

1. 設計のステップ

  1. 計測・連携要件の洗い出し: どのようなユーザー行動や情報(例: 記事のカテゴリ、商品ID、購入金額、フォーム入力内容など)を収集し、どのツール(GA4、Google Ads、Facebook Ads、その他)に連携したいかを具体的にリストアップします。この際、「なぜそのデータが必要なのか」「それをどう活用するのか」という目的を明確にすることが重要です。
  2. データレイヤー変数名の定義: 洗い出した情報に対応するデータレイヤー変数名を定義します。命名規則を統一し、分かりやすい名称にすることが後の管理を容易にします(例: pageCategory, productDetail.id, ecommerce.purchase.value)。
  3. イベント名の定義: 特定のアクション発生時にプッシュするイベント名を定義します。これも統一した命名規則を用い、どのようなアクションかを明確に伝える名前にします(例: view_item_detail, add_to_cart, purchase)。GA4推奨のイベント名(view_item_list, select_item, view_item, add_to_cart, begin_checkout, purchaseなど)を参考に、自社のイベントをマッピングすることを検討しましょう。
  4. データ構造の設計: 各イベントやページロード時に、どのデータレイヤー変数をプッシュするか、そのデータの形式(文字列、数値、配列、オブジェクトなど)を定義します。特にECサイトでは、商品リストや購入商品など、複数のアイテムに関するデータを扱うことが多いため、配列やオブジェクトを効果的に使用した構造を設計します。GA4のeコマースイベント構造を参考にするとスムーズです。
  5. 仕様書の作成: 設計した変数名、イベント名、データ構造、そしてそれぞれのプッシュタイミングを明確に記述した仕様書を作成し、開発者に共有します。具体的な実装例を示すと、開発者も理解しやすくなります。

2. 実装例:データレイヤーへのプッシュ

データレイヤーへの情報プッシュは、WebサイトのHTML <head> タグの直後に配置する標準的なデータレイヤーコードの後に、JavaScriptの dataLayer.push() メソッドを使用して行います。

例1:ページ読み込み時にページ情報をプッシュ

<script>
window.dataLayer = window.dataLayer || [];
dataLayer.push({
  'pageType': 'article', // 例:記事ページ
  'articleId': 'article-001',
  'articleCategory': 'technology',
  'authorName': 'John Doe'
});
</script>

これは、GTMスニペットよりに配置する初期データレイヤーの例です。

例2:ボタンクリック時にイベントと詳細情報をプッシュ

<script>
document.getElementById('add-to-cart-button').addEventListener('click', function() {
  dataLayer.push({
    'event': 'add_to_cart', // イベント名をプッシュ
    'ecommerce': { // GA4推奨のeコマース構造を模倣
      'items': [{
        'item_id': 'SKU123',
        'item_name': 'Example Product',
        'price': 1000,
        'quantity': 1
      }]
    }
  });
});
</script>

これは、ボタンのクリックイベント発生時にJavaScriptで dataLayer.push() を実行する例です。

これらのプッシュは、Webサイトのバックエンドやフロントエンドの開発者によって実装される必要があります。マーケターは、どのような情報が、いつ、どのような形式でプッシュされるかの仕様を正確に伝え、開発者と密に連携することが非常に重要です。

GTMでのデータレイヤー活用:変数、トリガー、タグの設定

データレイヤーに情報がプッシュされたら、次はGTM側でその情報を取得し、タグの発火に利用する設定を行います。

1. データレイヤー変数の設定

データレイヤーにプッシュされた値を取得するためには、GTMで「データレイヤー変数」を設定します。

  1. GTM管理画面で「変数」を開く。
  2. 「ユーザー定義変数」の「新規」をクリック。
  3. 変数タイプで「データレイヤー変数」を選択。
  4. 「データレイヤーの変数名」に、データレイヤーにプッシュされる際に使用されているキー名(例: pageType, ecommerce.items.0.item_id)を正確に入力する。ネストされたオブジェクトの場合は.で区切って指定します。配列内の特定要素を取得する場合はインデックス(0など)を指定します。
  5. 適切な変数名を付けて保存(例: dlv - pageType, dlv - ecommerce items item_id)。

これにより、データレイヤーにプッシュされた値をGTM内で変数として利用できるようになります。

2. データレイヤープッシュをトリガーとして利用

dataLayer.push({'event': 'イベント名'}) の形式でプッシュされた event キーの値は、GTMのカスタムイベントトリガーとして利用できます。

  1. GTM管理画面で「トリガー」を開く。
  2. 「新規」をクリック。
  3. トリガータイプで「カスタムイベント」を選択。
  4. 「イベント名」に、データレイヤーにプッシュされる際に指定した event の値(例: add_to_cart, purchase)を正確に入力する。正規表現も利用可能です。
  5. 適切なトリガー名を付けて保存(例: ce - add_to_cart)。

このカスタムイベントトリガーを使用することで、データレイヤーへの特定のイベントプッシュが発生したタイミングで、設定したタグを発火させることができます。

3. タグ設定への組み込み

データレイヤー変数とカスタムイベントトリガーを使って、各種タグを設定します。

例:GA4イベントタグの設定

データレイヤーにプッシュされたadd_to_cartイベントと、それに含まれる商品情報をGA4のadd_to_cartイベントとして送信する場合。

  1. GTM管理画面で「タグ」を開く。
  2. 「新規」をクリック。
  3. タグタイプで「Google Analytics: GA4 イベント」を選択。
  4. 設定タグ(GA4設定タグ)を選択。
  5. 「イベント名」に add_to_cart と入力(データレイヤーのイベント名と一致させる)。
  6. 「イベントパラメータ」で、データレイヤーから取得した商品情報を渡すためのパラメータを追加します。
    • パラメータ名: items
    • 値: データレイヤー変数で取得した商品リストの変数(例: dlv - ecommerce items) GA4の推奨イベントパラメータ名に合わせることで、GA4の標準レポートや探索レポートでデータを活用しやすくなります。
  7. 「トリガー」に、データレイヤーのadd_to_cartイベントに対応するカスタムイベントトリガー(例: ce - add_to_cart)を選択する。
  8. タグ名を付けて保存。

このように、データレイヤー変数で詳細なデータを取得し、カスタムイベントトリガーで適切なタイミングを捉えることで、GA4をはじめとする様々なツールに対して、より豊富で精緻なデータを連携させることが可能になります。

データレイヤーを活用した他ツール連携の応用

データレイヤーの真価は、そのデータが特定のツールだけでなく、複数のツールで横断的に活用できる点にあります。

データレイヤーを共通の情報基盤とすることで、これらのツールがそれぞれ独立してデータを取得するよりも、データの整合性が保たれ、設定・管理の手間も削減できます。

設計・実装時の注意点とトラブルシューティング

データレイヤーの設計と実装は、Webサイトの開発サイクルや技術的な考慮が必要となるため、いくつかの注意点があります。

まとめ:データレイヤー活用で実現するマーケティングの高度化

データレイヤーは、単なるデータ収集の手段に留まらず、Webサイトとマーケティングツールの連携基盤として機能します。適切に設計・実装されたデータレイヤーは、Webサイト上のあらゆるユーザー行動や関連情報を構造化された形でGTMに供給し、それを起点としてGA4での詳細分析、広告ツールでの精緻なターゲティングと効果測定、Web接客ツールでの高度なパーソナライズなど、多岐にわたるマーケティング施策の精度を劇的に向上させる可能性を秘めています。

標準的なGTM活用から一歩進み、「データレイヤー」という概念を深く理解し、開発者と連携して実践することで、これまで取得できなかったユーザーのインサイトを発見し、データに基づいたより効果的な意思決定が可能になります。これは、まさにツールを「使える」から「使いこなす」に変え、マーケティング活動を一段階ブーストさせるための重要なステップと言えるでしょう。

貴社のWebサイトとマーケティングツールの連携において、データレイヤーの設計と活用をぜひ検討してみてください。