マーケティングツール連携自動化:Make/Zapierワークフロー設計
導入:複雑化するマーケティング業務と自動化の必要性
Webマーケターの皆様におかれましては、日々の業務で多種多様なツールを使いこなし、データの分析から施策の実行まで、広範な業務を担われていることと存じます。Google Analytics、MAツール、CRM、広告プラットフォーム、CMSなど、それぞれが強力な機能を持つ一方で、これらのツール間でのデータ連携や作業の引き継ぎには、依然として多くの手作業や煩雑なプロセスが伴いがちです。
顧客データの統合、セグメントに応じたパーソナライズ、リードナーチャリングの自動化など、より高度で効率的なマーケティング活動を目指す上で、この「ツール間の壁」をいかに乗り越えるかが重要な課題となります。
そこで注目されているのが、プログラミングの知識がなくても複数のツールやサービスを連携させ、一連の作業を自動化できるノーコードツールです。特にMake(旧Integromat)やZapierは、その柔軟性と対応サービス数の多さから、マーケティング業務の自動化において強力な味方となります。
本記事では、MakeやZapierを活用してマーケティングツール間の連携を自動化するための、実践的なワークフロー設計の考え方と具体的な手法を解説いたします。単なる機能紹介に留まらず、皆様のマーケティング業務をより効率的かつ効果的にするための応用的なワークフロー設計のポイントをお伝えできれば幸いです。
ノーコードツールがマーケティング自動化に適している理由
MakeやZapierといったノーコードツールは、なぜ複雑なマーケティング業務の自動化に適しているのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 豊富な連携コネクタ: 多くの主要なSaaSツール(Google Analytics、Google Sheets、各種MAツール、CRM、SNS、広告プラットフォームなど)に対応した連携モジュール(Makeではモジュール、ZapierではApp/Trigger/Action)が用意されています。これにより、APIに関する深い知識がなくても、設定画面上で簡単にツール間を接続できます。
- 直感的なワークフロー構築: トリガー(自動化を開始する起点となるイベント)とそれに続くアクション(実行される処理)を組み合わせることで、視覚的にワークフロー(Makeではシナリオ、ZapierではZap)を設計できます。条件分岐や繰り返し処理など、複雑なロジックもGUIで比較的容易に構築可能です。
- 柔軟なデータ変換・加工: 連携するツール間でデータの形式が異なる場合でも、ツール内で提供される関数や機能を使ってデータの抽出、変換、整形が可能です。
- 迅速な導入と改善: プログラミングによる開発と比較して、はるかに短期間で自動化ワークフローを構築し、テスト、改善を繰り返すことができます。
これらの特性により、エンジニアのリソースに依存することなく、マーケター自身が業務効率化のための自動化を主体的に進めることが可能になります。
実践:マーケティング自動化ワークフロー設計のステップ
ノーコードツールを活用したマーケティング自動化ワークフローを設計する際は、以下のステップで進めることをお勧めします。
ステップ1:自動化したい業務プロセスの特定と分解
まずは、現在手作業で行っている業務の中で、自動化することで最も効率化や効果向上が見込めるプロセスを特定します。
- 非効率な繰り返し作業: 例:フォームからの問い合わせ情報をスプレッドシートに転記し、手動でMAツールに登録する
- ツール間のデータ連携: 例:特定の行動を取ったユーザーリストをGA4から抽出し、MAツールに取り込む
- リアルタイム性が求められる作業: 例:ウェブサイト上での特定アクション発生時に、担当者へ即時通知する
特定した業務プロセスを、要素ごとに細かく分解します。「何が起きたら(トリガー)」、「どのようなツール間で(ツール)」、「どのようなデータを(データ)」、「どのように処理し(アクション)」、「最終的にどうする(結果)」という視点で整理します。
ステップ2:必要なツールとデータの洗い出し
分解したプロセスに基づき、自動化に必要なツールと、ツール間でやり取りするべきデータを具体的にリストアップします。
例:フォーム送信情報のMAツール登録自動化 * 起点(トリガー): Webサイトの特定フォームからの送信 * データ: 送信者の氏名、メールアドレス、会社名、問い合わせ内容など * 経由ツール(必要に応じて): Google Sheets (バックアップ/集計用), Slack (通知用) * 終点(アクション): MAツールへのリード登録、セグメント追加 * 関連ツール: CMS (フォーム設置)、Google Sheets、Slack、MAツール
データの形式(テキスト、数値、日付など)や、各ツールで必要な項目名なども確認しておくと、後のステップがスムーズです。
ステップ3:Make/Zapierでのワークフロー構築
いよいよノーコードツール上でワークフローを構築します。MakeとZapierで用語は異なりますが、基本的な考え方は共通です。
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トリガーの設定: ワークフローを開始するイベントを設定します。
- 例:フォームツール(Typeform, Google Formsなど)で新しい回答があったとき
- 例:Google Sheetsの特定のシートに新しい行が追加されたとき
- 例:Webhook URLにデータが送信されたとき(より高度な連携)
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アクション/モジュールの追加: トリガーの後に実行される処理を順に追加します。
- ツール接続: 各ツールとの連携設定(APIキーやアカウント接続)を行います。
- データのマッピング: 前のステップで取得したデータを、次のステップで使用するツールの対応する項目に紐付けます。ここでデータの整形や変換が必要になることもあります。
- 条件分岐・フィルター: 特定の条件を満たす場合のみ次の処理を実行する(例:問い合わせ内容に「見積もり」を含む場合のみSlack通知する)といった設定が可能です。
- データ操作: テキストの結合・分割、数値計算、日付変換などの操作を行うモジュールを利用します。
Makeはより複雑な分岐や並列処理、エラー処理を柔軟に設計しやすい特徴があり、Zapierはシンプルで多くのSaaSツールとの連携を手軽に設定しやすい特徴があります。自動化したいプロセスの複雑さや利用しているツールに応じて選択すると良いでしょう。
ステップ4:テストと改善
ワークフローが構築できたら、必ずテスト実行を行います。実際にトリガーとなるイベントを発生させ、意図した通りにデータが流れ、各ツールで正しく処理が行われるかを確認します。
- データが正しく連携されているか
- 条件分岐が期待通りに機能しているか
- エラー発生時の挙動はどうか
- 不要な処理や重複がないか
テストで見つかった問題点を修正し、ワークフローを最適化します。最初は小規模な自動化から始め、段階的に複雑なワークフローに挑戦することをお勧めします。
具体的な応用ワークフロー例
マーケターの皆様が応用できる具体的なワークフロー例をいくつかご紹介します。
例1:リード獲得からMAツール登録・通知の自動化
Webサイトのフォーム送信をトリガーに、以下の処理を自動化します。
- トリガー: Typeformでフォーム回答を送信
- アクション1: Google Sheetsの指定シートに回答内容を行として追加(バックアップと共有用)
- アクション2: 回答者のメールアドレスをキーにMAツール(HubSpot, Marketoなど)にリードとして登録、または既存リード情報を更新
- アクション3: リード情報に特定のタグやセグメントを追加
- アクション4: Slackの特定チャンネルに、新しいリードがあったことを通知
これにより、フォーム回答があったらすぐに情報が記録され、MAツールでのセグメンテーションやフォローアップが可能となり、担当者への情報共有もリアルタイムに行えます。手動での転記ミスやタイムラグをなくし、迅速なリード対応を実現します。
例2:CMS記事公開時のSNS自動告知
CMSで新しい記事を公開したことをトリガーに、SNSでの告知を自動化します。
- トリガー: WordPressで新しい投稿が公開されたとき
- アクション1: 投稿タイトル、記事URL、抜粋文を取得
- アクション2: Twitterアカウントから、取得した情報と指定のハッシュタグを含めてツイート
- アクション3: Facebookページに、取得した情報を含めて投稿
これにより、記事公開の手間を減らし、情報発信のスピードと網羅性を高めることができます。必要に応じて、画像の取得や投稿内容の加工といったステップを追加することも可能です。
例3:特定GA4イベント発生ユーザーのCRM連携
より高度な例として、GA4で特定のコンバージョンイベント(例:料金ページ閲覧、特定資料ダウンロード)を発生させたユーザーを抽出し、CRMやスプレッドシートに連携するワークフローです。
- トリガー: GA4 Data APIなどからデータを定期的に取得、またはGA4のBigQuery連携データを監視(より技術的)
- アクション1: 特定イベントを発生させたユーザーをフィルタリング
- アクション2: ユーザー情報(Client IDなど)とイベント情報を取得
- アクション3: 取得した情報をGoogle Sheetsに追記または更新
- アクション4: (オプション)Google Sheetsの情報を元にCRM(Salesforce, Zoho CRMなど)で該当ユーザーの行動履歴を更新したり、フォローアップタスクを作成したりする
GA4 Data APIを直接叩くモジュールがあるツール(Makeなど)を利用するか、GA4データをBigQuery経由で連携し、BigQueryをトリガー/アクションとして扱う必要があります。やや複雑になりますが、GA4上のユーザー行動をマーケティング活動にダイレクトに連携させる強力な手段となります。
ワークフロー設計における注意点と最適化のポイント
- エラーハンドリング: 想定外のデータやツールの接続エラーに備え、エラー時の通知設定や再試行、隔離といった処理を設定することが重要です。Makeはエラーハンドリングの機能が比較的充実しています。
- データ形式の確認: 各ツールでデータ形式(テキスト、数値、日付など)や必須項目が異なる場合があります。データマッピング時に適切な形式に変換したり、不足データを補完したりする処理が必要になります。
- API制限: 連携するツールのAPIには利用制限(レートリミット)がある場合があります。特に大量のデータを一度に処理する場合や、頻繁にワークフローを実行する場合は、API制限を超えないようワークフローの実行頻度や処理量を調整する必要があります。
- 保守性: 複雑なワークフローになるほど、後から見たときに内容が理解できるよう、モジュールやステップに分かりやすい名前をつけたり、メモを残したりすることを推奨します。ツール側の仕様変更にも注意が必要です。
- セキュリティ: ツール連携にはAPIキーやアカウント情報を使用します。これらの認証情報は安全に取り扱い、必要最低限の権限設定に留めることが重要です。
まとめ:ノーコードツールでマーケティングを次のレベルへ
MakeやZapierといったノーコードツールは、マーケターが直面するツール連携や繰り返し作業の課題に対し、実践的かつ強力な解決策を提供します。プログラミングスキルに依らず、自らの手で業務プロセスを自動化し、複数のツールをインテリジェントに連携させることで、マーケティング活動の効率を劇的に向上させ、より高度な施策(パーソナライズ、迅速なリード対応など)の実現を可能にします。
本記事で紹介したワークフロー設計のステップや応用例を参考に、ぜひ皆様のマーケティング業務における自動化・効率化に挑戦してみてください。最初は小さなワークフローから始めて、徐々に複雑な連携に広げていくことが成功の鍵となります。ノーコードツールを使いこなすことで、マーケターとしての生産性を高め、ビジネス成長に貢献できる可能性は大きく広がります。