マーケティングデータ レポーティング自動化設計:Looker Studio×Google Sheets活用術
膨大なマーケティングデータ、手動レポーティングの限界と自動化の必要性
日々のマーケティング活動において、多様なチャネルから発生するデータの収集・分析・レポーティングは不可欠です。Google Analytics(現GA4)、Google広告、Facebook広告、その他のSNS広告、メールマーケティングツールなど、利用しているツールは多岐にわたります。これらのツールからデータを手動で抽出し、集計・加工してレポートを作成する作業は、膨大な時間を要し、担当者の大きな負担となっています。
特に、複数のデータソースを横断的に分析し、施策全体の効果測定や意思決定に活かそうとすると、データの整形や統合にさらに多くの工数がかかります。手動作業はミスも発生しやすく、リアルタイム性に欠けるため、迅速な状況把握や改善アクションの妨げにもなりかねません。
このような課題を解決するために、レポーティングの自動化が注目されています。本記事では、多くのマーケターにとって身近なツールであるLooker StudioとGoogle Sheetsを組み合わせた、実践的なレポーティング自動化の設計方法と活用術を解説します。単なるツール紹介に留まらず、複数のデータソースを効率的に統合し、目的に合わせたレポーティングを実現するための具体的なステップと応用テクニックをご紹介します。
Looker Studio×Google Sheets連携によるレポーティング自動化の全体像
Looker Studioは多様なデータソースに接続し、インタラクティブなレポートやダッシュボードを作成できる強力な可視化ツールです。一方、Google Sheetsは柔軟なデータ加工・集計が可能であり、多くのAPIやツールとの連携も容易です。この二つのツールを組み合わせることで、以下のようなレポーティング自動化のワークフローを構築できます。
- データソース: GA4、広告プラットフォーム(Google広告、Facebook広告など)、その他のマーケティングツール、CRMなど、レポートに必要なデータが発生するツール群。
- データ収集・統合(Google Sheetsがハブとなる場合): 各データソースからGoogle Sheetsへデータを自動的、または半自動的に収集します。API連携、専用コネクタ、Google Apps Script(GAS)などが主な手段です。
- データ加工・整形(Google Sheets): Google Sheets上で、収集したデータをレポートの形式に合わせて加工・整形します。関数による計算、データの結合、不要な列の削除、形式変換などを行います。
- データ接続(Looker Studio): Google SheetsをLooker Studioのデータソースとして接続します。
- レポート設計・可視化(Looker Studio): Google Sheets上の加工済みデータを使用して、Looker Studioで目的に合わせたレポートやダッシュボードを作成します。グラフ、表、フィルタ、計算フィールドなどを活用します。
- レポート共有・自動更新: 作成したレポートを関係者と共有し、データソースの更新に合わせてレポートも自動的に更新されるように設定します。
このワークフローにおいて、Google Sheetsは単なるデータ置き場ではなく、複数のソースから集めたデータをLooker Studioで扱いやすい形に変換する「加工ハブ」としての役割を担います。これにより、Looker Studio単体では難しい複雑なデータ統合や整形が可能になります。
実践ステップ1:データソースからGoogle Sheetsへの自動収集・加工
レポーティング自動化の最初のステップは、必要なデータを各ツールからGoogle Sheetsに自動的に集めることです。
1-1. 各データソースからのデータ収集方法
-
Google Analytics 4 (GA4): Looker StudioはGA4に直接接続できますが、Google Sheetsを介することで、複数のGA4プロパティのデータを統合したり、他のデータソースと結合したりする前処理が容易になります。GA4 Data APIを利用して、GASで定期的にデータを取得し、Google Sheetsに書き込む方法があります。 ```javascript // GASのサンプルコード(概要) function fetchGa4Data() { const spreadsheetId = 'YOUR_SPREADSHEET_ID'; const sheetName = 'GA4Data'; const propertyId = 'YOUR_GA4_PROPERTY_ID'; const sheet = SpreadsheetApp.getActiveSpreadsheet().getSheetByName(sheetName);
// APIリクエストの設定(例:期間、ディメンション、メトリクス) const request = { property: 'properties/' + propertyId, dateRanges: [{ startDate: '7daysAgo', endDate: 'today' }], dimensions: [{ name: 'date' }, { name: 'pageTitle' }], metrics: [{ name: 'sessions' }, { name: 'averageSessionDuration' }] };
// Data APIを呼び出し const response = AnalyticsData.Properties.runReport(request, request.property);
if (!response.rows) { Logger.log('No rows returned.'); return; }
// ヘッダー行の準備 const headerRow = response.dimensionHeaders.map(h => h.name) .concat(response.metricHeaders.map(h => h.name));
// データ行の準備 const dataRows = response.rows.map(row => { const dimensionValues = row.dimensionValues.map(dv => dv.value); const metricValues = row.metricValues.map(mv => mv.value); return dimensionValues.concat(metricValues); });
// スプレッドシートに書き込み(既存データの上書きや追記は設計次第) sheet.getRange(1, 1, 1, headerRow.length).setValues([headerRow]); // ヘッダー sheet.getRange(2, 1, dataRows.length, dataRows[0].length).setValues(dataRows); // データ }
// 補足:このGAS関数をトリガーで定期実行することで自動化 ``` * 広告プラットフォーム (Google広告, Facebook広告など): 各プラットフォームが提供するAPI(Google Ads API, Facebook Marketing APIなど)を利用して、GA4と同様にGASでデータを取得し、Google Sheetsに書き込むのが一般的です。SupermetricsやCoupler.ioといった有償のコネクタサービスを利用すると、コードを書かずに様々なデータソースからGoogle Sheetsにデータを自動インポートできます。 * その他のツール: CRMやMAツールなど、連携可能なAPIを提供している場合はGAS等で連携します。APIがない場合でも、CSVエクスポート機能をGASやRPAで自動化したり、ZapierやMakeといったiPaaSツールを経由してGoogle Sheetsにデータを送ったりする方法も考えられます。
1-2. Google Sheetsでのデータ加工・整形
Google Sheetsに集めたデータは、そのままではLooker Studioで分析しにくい形式になっている場合があります。ここで適切な加工を施します。
- 複数シートの結合: 異なるソースから収集したデータを一つのシートにまとめたい場合、
QUERY
関数やIMPORTRANGE
関数、あるいはGASでデータを読み書きすることで実現できます。excel =QUERY({IMPORTRANGE("スプレッドシートID1","Sheet1!A1:C"); IMPORTRANGE("スプレッドシートID2","Sheet1!A1:C")},"SELECT * WHERE Col1 IS NOT NULL")
(これは異なるシートの同じ列構成のデータを結合する例です) - 列の計算や変換: Looker Studioの計算フィールドでも可能ですが、Google Sheetsであらかじめ計算列を追加しておくと、Looker Studioでの処理がシンプルになります。例えば、「コンバージョン率 = コンバージョン数 / セッション数」のような計算です。
- データの正規化: 複数のソースで表記揺れがある項目(例: キャンペーン名、デバイス名)を統一します。
VLOOKUP
やINDEX+MATCH
関数を使用して、別途作成したマスタデータに基づいて変換するなどが有効です。 - 日付形式の統一: 異なるデータソースで日付や時刻の形式が違う場合、Looker Studioで正しく認識される形式(例:
YYYY-MM-DD
)に統一します。TEXT
関数などが使えます。
Google Sheetsでの加工は柔軟性が高い反面、シートが複雑化しやすく、処理が重くなることもあります。加工ロジックはシンプルに保ち、Looker Studio側で対応できる部分はLooker Studioで行う、というバランスが重要です。
実践ステップ2:Google SheetsからLooker Studioへの接続とレポート設計
Google Sheetsでデータが整ったら、いよいよLooker Studioに接続し、レポートを作成します。
2-1. Google Sheetsコネクタの設定
Looker Studioで「データソースを作成」から「Google Sheets」を選択します。接続したいGoogle Sheetsファイルと、使用するシートを指定します。
- ヘッダー行: データの最初の行がヘッダーであることを確認します。
- 範囲: レポートに使用するデータの範囲を指定します。データが動的に追加される場合は、最終行を指定せず列全体を選択すると便利です。
- データの更新頻度: Looker Studioはデフォルトで定期的に接続元データを更新します。Google Sheets側のデータが更新される頻度に合わせて設定を確認します。
2-2. Looker Studioでのレポート設計と応用
Google Sheetsをデータソースとしてレポートを作成します。Google Sheetsで加工したデータが、Looker Studioのディメンションやメトリクスとして利用可能になります。
- 基本的な可視化: 時系列グラフ、スコアカード、表など、基本的なグラフ要素を配置し、主要な指標(セッション数、コンバージョン数、費用、ROASなど)を表示します。
- 複数データソースの統合: Google Sheetsで異なるデータソースを結合している場合、Looker Studioではその結合済みシートを一つのデータソースとして扱えます。または、Google Sheetsでシート分けしている場合、Looker Studioの「混合データソース」機能を使って、シート間のデータを結合することも可能です。
- 混合データソースの勘所: 混合データソース機能は便利ですが、結合キーの設定(日付、キャンペーン名など)や、各データソースの粒度を合わせることが重要です。例えば、日次データと月次データを直接結合すると意図しない結果になることがあります。Google Sheetsで事前に粒度を揃えておくのが安全な方法です。
- 計算フィールド: Google Sheetsで加工しきれない、あるいはLooker Studio上で柔軟に変更したい計算(例: CVR、CPAなど)は、Looker Studioの計算フィールドで定義します。
// Looker Studioの計算フィールド例 SUM(コンバージョン数) / SUM(セッション数)
データソース側の指標名を正確に使用します。 - パラメータとフィルタ: レポートの期間、チャネル、キャンペーンなどを動的に切り替えられるように、期間設定コンポーネントやフィルタ設定を追加します。特定のレポート閲覧者向けにデフォルトフィルタを設定することも可能です。
- 応用的なグラフ: 目標達成率を示すゲージグラフ、相関を見る散布図、地域別のパフォーマンスを示すマップグラフなど、目的に応じた多様なグラフを活用します。
- 定期的なレポート配信: 作成したレポートは、設定した頻度(日次、週次、月次など)で指定したメールアドレスに自動配信できます。これにより、関係者はLooker Studioを開くことなく最新のレポートを受け取れます。
レポーティング自動化設計における考慮事項
レポーティング自動化を設計・運用する上で、いくつかの重要な考慮事項があります。
- データ鮮度と更新頻度: どのくらいの頻度で最新データが必要かによって、Google Sheetsへのデータ収集頻度、およびLooker Studioのデータソース更新頻度を設定します。リアルタイムに近いデータが必要な場合は、API連携の実行頻度を高くしたり、Looker Studioが直接接続できるデータソース(GA4など)と組み合わせたりすることを検討します。
- データ量とパフォーマンス: Google Sheetsに大量のデータを格納しすぎると、シートの操作やLooker Studioでの読み込みが遅くなることがあります。必要なデータのみを収集・加工する、過去データは別途アーカイブするといった対策が必要です。BigQueryなどのデータウェアハウスを間に挟む構成も検討価値があります。
- エラーハンドリングとメンテナンス: API連携やGASスクリプトは、API側の仕様変更やネットワークエラーなどで停止する可能性があります。エラー発生時の通知設定(メールなど)を行い、定期的に動作確認をする運用体制が必要です。スクリプトやシートの変更履歴管理も重要です。
- セキュリティ: APIキーや認証情報は適切に管理し、権限設定を最小限に抑える必要があります。Google Sheetsの共有設定も、必要なユーザーに限定することが不可欠です。
- レポート利用者のリテラシー: 作成したレポートは、誰がどのように利用するのかを事前に想定し、レポートの構成や可視化方法を決定します。専門的な知識がなくても理解できるよう、凡例や説明テキストを加えるなどの工夫が必要です。
まとめ:レポーティング自動化で獲得する時間と示唆
Looker StudioとGoogle Sheetsを連携させたレポーティング自動化は、手動作業から担当者を解放し、より戦略的・分析的な業務に時間を振り向けることを可能にします。
- 効率化: データの収集・加工・レポート作成にかかる時間を大幅に削減できます。
- 迅速性: 最新データに基づいたレポートを常に利用でき、変化への迅速な対応が可能になります。
- 正確性: 手動による集計ミスやコピペミスを減らし、データ品質を向上させます。
- 統合分析: 複数のデータソースを横断的に分析し、施策全体の相乗効果や課題を把握しやすくなります。
本記事で紹介した方法は、あくまで一例です。組織の利用ツール、データ量、レポーティング要件に応じて最適な構成は異なります。しかし、Looker StudioとGoogle Sheetsという柔軟なツールを組み合わせることで、多くのマーケターが直面するレポーティングの課題に対し、実践的かつ応用的な解決策を設計できることをご理解いただけたはずです。
ぜひ、この記事を参考に、ご自身のレポーティング業務の自動化・効率化に取り組んでみてください。自動化によって生まれた時間は、データから新たな示唆を見出し、施策改善へと繋げるための貴重なリソースとなるでしょう。